サスペンションの交換によるタイムアップ

コンプレッション側減衰を強化したいという要望をよく頂きます。
コンプレッション側減衰を硬くなる方向で強化するとタイムが向上する。間違いではありませんが正確な表現ではありません。強過ぎる設定ではタイヤが跳ね上げられてしまい、駆動力を伝えることができなくなります。
“過ぎたるは猶(なお)及ばざるが如し”なわけです。

毎年、サスペンションはモデルチェンジを行っています。
単にコンプレッション側減衰を強化しているだけではなく、その質的な改良を目的としています。

コンプレッション側減衰を強化すると乗り心地が悪くなる、これが一般的に定着しているイメージであると思います。しかしこれは正確な表現ではありません。
乗り心地が極端に悪化している場合はコンプレッション側減衰、もしくはリバウンド側減衰の設定が過剰になっている可能性を疑ってください。
ふわふわを抑えることができれば、アクションに対するきっかけを掴み易くなりますし、しっかりとした不安感のない乗り心地になります。

ではどのようなメカニズムでタイムアップさせているのか、簡単にご説明を。
後輪が跳ね上げられ空回りしている状態では地面にトラクションを伝えることはできません。
その時間を無くす、もしくは短縮することができれば、発生しているトラクションを無駄なく路面に伝えることができます。これが劇的にタイムを向上させることのできる典型的なケースでした。
実際、オーストラリアを長距離、長時間を走るソーラーカーのレースでは、データロガーによってチェックされたタイヤの空転時間の総計は信じられないほどの長さで、これを改善することによって走行タイムを約1日!短縮させることができました。しかし今ではこのような方策でのタイム向上は常識以前のお話となっています。

現在は衝撃を受けて上下動している車体を制御することによってタイムを削っています。
車体がふわふわしている状態では、行きたい方向に進んでいくためのエネルギーを無駄なく路面に伝えることはできません。
タイヤは地面を後に押すことによって前に進む力を発生させています。ふわふわとした上下動はタイヤが車体を前に押し出す力の邪魔をしているのです。これはマウンテンバイクも同じこと。

ふわふわしている原因はダンパーユニット。ペダリングなどによるライダーの荷重移動や衝撃の入力などによって、必要以上にダンパーシャフトが動かされている状態なのです。
ダンパーの圧縮される量を減らす方向に制御することがコンプレッション側減衰の仕事です。ダンパーはバネを圧縮させることによって伝えられたエネルギーを熱変換することによって消費しています。ダンパーの質を向上させて短い距離(ストローク)でエネルギーを消化することができれば、バネも大きく動く必要がなくなり、余分な上下動を減らすことができるわけです。こうした部分の改良が毎年行われています。

ではどのような状態の時、タイムは向上しているのでしょうか?
これはライダーが何もしていない時間帯。言い換えれば、平坦な区間などでタイムは向上しています。
コーナーで何秒もタイムを削るなんてことは不可能。(ここは皆さんが頑張ってください。)コーナーなどではタイムを向上させるのではなく、安心感の提供や確実なコントロールを手助けすることがサスペンションの仕事になります。

ペダリングをせずに下っている時、ハンドルにしがみつくように力を振り絞っている登坂の時、はやる気持ちを抑えペダルを回す平坦路などで、サスペンションはあなたのタイムを向上させるために頑張っています。

残念ながら、ほとんどの方はタイムアップを体感することはできません。
「あれ?同じコースなのに普段よりも疲れていない。」(足が残っている、衝撃がうまく緩和されている)程度。
しかし以前の走行タイムと比較すると確実に向上しています。
リアルな手応えや有難味がほとんどない状態で威力を発揮しています。タイムという客観的な数値だけがその効果を証明することができるといっても過言ではありません。
良質な仕事をしていても認められることが少ない、せつない状況が“良いサスペンション”の宿命なのです。