フロントサスを硬めに?

ライダーがメカニックに「サスを硬くしてくれ」と伝えたと仮定します。

それだけでは作業に取り掛かることはできません。
ほとんどのライダーは具体的な事象を経験していても、その事実を簡潔に伝えようとする際、行き過ぎた編集によって“要望”が“具体的な作業内容”に変換されてしまっていることが多いのです。
「ストローク全域で動きすぎる」という具体的な要望であれば、直ぐに硬くする作業に取り掛かることができます。

適切な作業を行うためには、どの領域で、どのような不満があるのか具体的かつ正確に把握する必要があります。サスペンションの知識があり、その方策を施せるメカニックならば、「何が欲しいのか」「何が不満なのか」を改めてライダーに尋ねます。その上で「硬くしたい」というのはスプリング側で対策すべきことなのか、ダンパーのセッティングで対応するべきなのかを切り分けます。

短時間でライダーが納得する設定を行うためには、硬めにすることによって発生するメリットとデメリットを十分に検討した上での対策を講じる必要があります。

例えば、ペダリングによるピッチングを防ぎたいという具体的な要求である場合、
①初期スロー側コンプレッションを強めに調整する。
②エアスプリングに加圧
などが、効果的な対応策と思いつくはずです。(少しサスを知っている方ならば、リバウンドを強くすることも有効な対策になることもご理解いただけると思います。)

①と②、同じように「動かなくなる」方向性の変更なのですが仕事の内容が大きく異なってきます。
①はコンプレッション側減衰の仕事量を増やして余分な動きを少なくする。
②はスプリングを硬くして動く量を少なくする。

共に発生するデメリットは低速域での荷重コントロールがシビアになります。
しかし①の場合ダンパーが高性能なものならば、そのデメリットはほとんど発生しません。
①の場合、ピッチングを減らすことができれば、リバウンドの微調整、もしくはそのままの設定で終了となることが多いのですが、②の場合にはダンパー側の調整が必要になると思います。

調整が面倒だという方が多いと思います。概念としての調整のキモを知っておいてください。

必要とされる減衰量=リバウンド側減衰量+コンプレッション側減衰量

とお考え下さい。

ほとんどの場合、リバウンド側減衰をプラスしたのならばコンプレッション側減衰をマイナスする、コンプレッション側減衰をプラスしたらリバウンド側減衰を減らすといった方向性にあります。これを概念としてもっていれば、セッティングで大きく迷うことはなくなると思います。

リバウンドとコンプレッションを一度に調整しろ!とお伝えしているわけではありません。
“必要とされる減衰”は想像の値ですから増減しますし、必ずしも正しい値を想定できているわけではありません。
一つ調整を行ったのならば必ずその変化を確認した後に次の調整を行うようにしてください。
調整後の値が結果として必要とされる減衰量よりも少なかった場合、リバウンド側をプラスしてもコンプレッションをマイナスする必要はありません。

一つの事象にとらわれず、他に発生している現象と結びつけることによって正解と思われる方向へ進みます。正しいサグ量が得られている状態であれば、“必要な減衰”が存在している領域をある程度絞り込むことができます。
難しく考えてしまいがちなのですが、不満を感じたときにそれを解決する方策を見つければいいだけのお話。
その解決の方法がセッティングなのです。その際に記録をしておけば、どのような調整によってどのような現象が発生したのかを把握しておくことができます。